日本シリーズ、広島黒田博樹から日ハム大谷翔平へのラブレター
日ハム、10年ぶり日本一
日本シリーズ、第6戦。
日本ハムは広島に10ー4で勝利した。序盤、日ハムは2連敗。その状況から4連勝をあげ、10年ぶり日本一を達成した。
第6戦の点差は10ー4と大きいものがあったが、どちらのチームが勝ってもおかしくない素晴らしい勝負だった。
今回の日本シリーズ。日ハムと広島の名勝負はもちろん、その勝負の中にいくつもの名勝負があった。
「今季限りで現役引退する」と表明した広島黒田博樹と日ハム大谷翔平の勝負も、まさにその1つだった。
2人の想い
黒田の想い
黒田にとって、日本一をかけた日本シリーズは悲願のものだった。
日本人メジャーリーガー初となる5年連続2桁勝利をあげた当時。ヤンキースは再契約を強く望み、パドレスなどは1800万ドル(約21億6000万円)を提示したといわれていた。
だが、広島と合意。年俸4億円プラス出来高払いの1年契約。広島にとって球団史上最高条件だが、パドレスの5分の1ほどの条件だった。それでも黒田は広島に決めた。
「悩みぬいた末、野球人生の最後の決断として、プロ野球人生をスタートさせたカープで、もう一度プレーさせていただくことを決めました。今後も、また日々新たなチャレンジをしていきたいと思います」
引退。そして、これだけの想い。チームはもちろん、ファンも願う、「日本一」への想いは相当なものだったはずだ。
大谷の想い
大谷にとっても黒田に対して「特別な想い」があった。
メジャーで2桁勝利を上げ続けた黒田。
その存在は高校時代から大リーグを目標とする大谷翔平にとってはまさに「憧れの存在」だった。
投球術の細部を語った黒田の著書『クオリティピッチング』は愛読書の一つでもあったし、「黒田さんが投げていると聞けば、(テレビの)チャンネルを合わせたくなる」と語っていたくらいだ。
自身が目指すメジャーで活躍した選手、黒田との対決はとても大切なものだった。
2人の対決
2人の対決は10月25日。日本シリーズ第3戦だった。
試合前、黒田は大谷について、こう語った。
「日本プロ野球の中でも特別な存在。しっかりとしたピッチングがしたい。楽しみという気持ちはない」
大谷は試合前の気持ちについて、こう語っていた。
「(日本シリーズ第1戦は)僕のふがいない投球で負けた。取られた分の倍くらいを取り返す気持ちだった」
黒田がマウンドに立つ
そして、今季限りでの現役引退を表明した広島・黒田博樹がついにマウンドに立ち、大谷と3度の勝負をした。
初回は初球のツーシームを叩き、左翼線二塁打。
4回は内角のカットボールを強振し、右中間へ2打席連続の二塁打を放ち、6回、3度目の対決はフォークで左飛に打ち取られた。
黒田はここで両足の張りを訴え、大谷との対決を最後にマウンドを降りた。
黒田は「投げる」のもきつい状況だった。だが、両足の張りがあったなど微塵も感じさせる様子はなかった。
それについて、大谷はこう語った。
「それまで全くそういうそぶりを一切見せなかったのは凄い」
3打席。計8球
2人の勝負は3打席。
黒田はマウンドから、大谷に最高の投球術を伝えるように投げていた。
3打席。計8球
その8球について大谷は語る。
「ほぼ全球種、打席で見られた。間合いだったり、ボールの軌道だったり。勉強になりました……(それらは)今後必要な球種。(自分のイメージに)軌道があるのとないのでは違う」
2人の戦いの後、日ハムは日本シリーズで初勝利を上げ、そこから連勝し……第6戦でついに10年ぶり日本1となる。
日本シリーズが終わった後、大谷翔平は黒田について語った。
「日本シリーズでの黒田さんとの対戦は、貴重な経験になりました。小さいころからずっと見ていた投手なので、目の前で投げている姿を見るのは何か変な感じはしました。自分にとっては『テレビの中のプロ野球選手』。実際に対戦するという実感があまりなかったような感じでした。ただ、そういう意味では今後に生きてくるのではないかと思います。日本シリーズという大舞台で、日米の球史に名を残した大投手との対戦。これを経験するのとしないのとでは全然違うでしょうし、これから生かせるところがあれば生かしていきたいです」
黒田は大谷翔平について、こう語った。
「次元が違うというか。投球も見ましたし、打者も対戦した中ですべてが一流だなと。(二刀流は)あり得ないことだと思っていたので、ちょっと自分の中ではショッキングだったというか、すごいなとあらためて感じた。
(投手としても打者としても)ああいう選手はなかなか出会うことがないので、アスリートとしての次元が違うなと感じました。スイングスピードが速い選手はたくさんいると思いますけど、技術的にもまだまだ伸びる余地がある」
そして、「最後に対決した打者」が大谷だったことについて、黒田は述べた。
「一アスリートとして違うレベルの選手だと思うので、あれだけの選手が今後どういうプレーヤーになっていくのか一ファンとして楽しみにしたい」
「一ファン」という言葉がとても印象的だった。
黒田と大谷。
2人の勝負はまるで、戦いというより、ラブレターのようだった。
最後にもう1つ…
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